もしも、あの時、福島にいなかったたら・・・。
もしも、あの時、あの光景を目にしなかったら・・。
彼女の人生は全く違っていたのかもしれません。
彼女の名は、田中久美子さん。
彼女は今、飯館村で『村カフェ753』を営み、日々ベーグルを焼きながら、飯舘村で暮らしています、
『村カフェ753』は、2020年4月に飯館村の有名珈琲店椏久里を借受け誕生しました。メインはベーグル。村内生産者の協力を得て、いちご、ブルーベリー、いいたて雪っ娘かぼちゃ、なつはぜ、桜の花の塩漬け、にんにくスプラウト、トマト、荏胡麻(えごま)、大豆などをベーグルやパンの具材に取り入れて販売しています。
前職は看護師だった田中さんが、なぜ飯館村でベーグルを焼いているのでしょう?
「都内の病院で患者さんの病気や治療と毎日向き合いながら、その都度考えさせられることが多く、看護をもう一度学び直すために福島県立医科大学大学院看護研究科に入学したのが2009年でした。就職先も決まり修了を待つばかりの3月に東日本大震災。直後は医大で原発事故後の患者の手当に従事しました。その後関東に戻り勤務しましたが、福島で共に学んだ仲間達が福島の復興と医療支援のために必死に奮闘していたので、ボランティアとして5年間福島を行き来しました。」と田中さん。
5年間の往来は、彼女の心に変化をもたらしました。「震災後の状況は、自分たちが直面している医療現場と似ています。急性期は対応が手厚いのですが、慢性期になると対応頻度が下がります。その経過と、復興支援の経過がよく似ているなと感じました。震災直後に寄せられた全国からの支援や人手は、どんどん薄くなっていました」。
支援活動が慢性期に入ったと感じた田中さんは、2016年に看護師人生の最後を勤め上げる覚悟で、相馬市の友人が経営する訪問看護ステーションで働くことを決意します。仕事の現場は、相馬市の応急仮設住宅、そこには飯舘村の仮設住宅もあり、村の人々との交流が深まっていきました。
飯舘村の避難解除が決まり、担当する患者さんたちも帰村。それに併せて、田中さんたちの訪問看護先も飯舘村へと移っていきました。「院生の頃に何度か訪れた飯館とは全然違いました。変わり果て、ゴーストタウンのような光景は衝撃的でした」。そんな状況の中で、何とか生活を取り戻そうと苦しむ帰村した方々の姿を目の当たりにして、看護の仕事でお手伝いしようと取り組んだそうです。
村の人々と良好な関係は、思いがけないチャンスをもたらします。「椏久里の話題になって、閉まっているのはやだな〜私が借りて復活させたいって言っちゃったんです(笑)。そしたら、翌週にはオーナーに会える段取りができてたり、オーナーが理解して協力を約束してくれたり、どんどん話が進んでしまいました」。
いずれはB型就労支援施設にしたいと思うこともあり、田中さんはベーグルに特化した事業計画を立てました。パン屋の従姉妹に3年で全財産を無くすよとまで言われても、「そうなれば看護師に戻ればいい。流されるなら流れてみよう。流れにまかせてみよう。これもご縁、やるしかない!と腹を括りました」と歩みを止めなかった田中さんです。
「医療の世界ではひとつのことに10年費やさないと一人前にはなれません。愚直な継続の連続です。この店も飯舘村にしっかり根ざして、愚直にベーグルを焼き続け、お店を継続していきたいと思って始めました。とにかく10年。今その半分を経過したところです。これからの5年は、大きな変化があるかもしれません。たたむことも含めて覚悟を決めて取り組みます」。
命の現場から解放された安堵感でしょうか、「自分で決めたことだから精神衛生上すごくいい」と毎日焼き上げたベーグルの配達に出かけ、ご自身が主催するマルシェの準備で村中を駆け巡っていらっしゃいます。
福島県飯館村深谷字市沢193-1(GoogleMap)
ウェブサイト:https://www.muracafe753.com/
◎ベーグル(冷凍)はネット販売を行っています。ぜひ、ご利用ください。
トップ画像:ベーグル
画像:村カフェ753 田中久美子さん 希望学園の子どもたちが訪問した際の笑顔の一枚
画像:ベーグル
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