ものづくりの物語を紡ぐ平岡雅康さん ~時計と養蚕 文化継承と新たな時を刻む~

▼南相馬市小高区の文化
 小高区では、明治時代から養蚕・織機産業が発展し、1990年代を境に衰退をはじめたものの、2011年の東日本大震災直前まで養蚕農家、織機事業者が事業を継続していた。しかし、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け全域避難をした小高区は、避難区域解除までに5年の歳月を要した。
 津波被害に合わせ、避難で放置された桑の木は、農地除染の中で伐採され、養蚕農家で使用されていた作業所も解体。織機事業者も織機や工場の解体をせざるを得ないほどの被害を受けていました。

▼小高区との出会いから
 埼玉県大宮で国産時計ブランド会社を経営していた平岡雅康さんは、もう一つの顔“花火師”としてコロナ渦下に復興支援活動で小高区での花火大会に参加しました。その時小高区での起業支援の制度に触れ、時計製造部品の多くが東北で製造されている地の利から、移住起業を決意。時計ブランド会社「株式会社Fukushima Watch Company」を創業させました。
 
▼養蚕・シルク
 時計の製造販売に取組みながら、ものづくりに関心を持つ平岡さんは、大宮在住時から養蚕にも関心を持ち、群馬県富岡市で養蚕を学び、人口飼料での飼育をしていました。小高区に移住し、養蚕が主要産業の一つとして栄えていた歴史に触れました。震災前まで養蚕をしていた農家や桑畑がまだ近隣の原町区に残されていることも知ました。そして、県内の養蚕家を支える稚蚕飼育所が阿武隈高原の田村市都路町にあり、幼虫確保の紹介を受けたことも大きな機会となりました。

▼ものづくりの物語が始まる
 小高区の文化でもある養蚕を残していきたいと、平岡さんは時計事業などを進めながら店舗からは少し離れた空き家を一人で改修し、5,000匹の蚕飼育を開始しました。生産はまだ少量ではあるが、医療・食品・化粧品などで活用される可能性を秘めたシルクを産業とするため、2024年1月に福島シルクラボ株式会社を設立。シルク石鹸の製造販売を開始しています。シルク文化の再興と小高区の経済の活性の一躍に貢献したいと平岡さんは歩みを進めます。
(2024年7月30日取材S)

■名称  平岡雅康さん
■住所  株式会社Fukushima Watch Company、福島シルクラボ株式会社
     福島県南相馬市小高区東町1-40 ギフトショップ「KIRA」内 
■URL https://fukushima-watch.com/
     https://fukushimasilk.com/

写真トップ:2024年6月に飼育をした蚕からできた繭を見せてくださった平岡雅康さん
事務所兼店舗「KIRA」ではシルクソープ・シルク繊維を織り込んだ靴下、オリジナル時計などの商品が購入できる。

 

写真2:「KIRA」は、隣接する旅館の家主から旧店舗を借りて営業。
今では近隣住民の交流の場ともなり、取材中も声を掛けられる平岡さん。

 

写真3:復興半ばの小高区には国内外からの視察者が多く訪れる。
商店が十分にそろっていない中、福島のものづくりに触れられる商品も展示販売されている。