農業の伝道師・小澤嘉則さん 「ふるさと工房おざわふぁーむ」(古殿町)

▼NHK「鶴瓶の家族に乾杯」でも紹介された「凍み餅」
古殿町の「ふるさと工房おざわふぁーむ」が取り組む凍み餅などの伝統郷土食は、料理家の栗原はるみさんが気に入って足しげく通うことが話題になるなど、地域振興に大きな役割を担っている。その2代目社長に9月1日付で就任したばかりの小澤嘉則さん(41歳)を訪ねた。

▼ホテル勤務を経て農家の後継ぎに
小澤嘉則さんは、酪農家の長男として生まれたが、親からは農業以外への進路を勧められ、商業系の高校を経て隣町の老舗ホテルに就職。ホテルの社長にも気に入られていたが35歳を機に退職して、酪農から米作に転換していた実家の後継ぎになった。

▼思いは農業と地域の振興
古殿町は阿武隈山系の山間に位置し、林業と農業が盛んな地域だが、少子高齢化により、担い手不足のコメ農家から生産委託の依頼が重なり、現在では20町歩を超える田んぼを任されている。加えて、古殿町には果樹農家がないことからオンリーワンを目指し、ぶどう栽培にも取り組んでいる。さらに酒米を生産し、そのコメを使って冬場は町内の造り酒屋で杜氏として酒造りにも携わり、究極の六次化を実現している。これも農家として生計を維持して行けることを示し、農業振興に役立ち、ひいては地域振興に一役買いたいという考えからだ。

▼農業を次世代に引き継ぎたい
見据える先は次の世代の育成。自らも卒業した古殿小学校の5年生には、もち米を田植えから、稲刈り、餅つきまで1年を通した体験を提供している。また、親戚の縁もあり、東京の小学校にも農業の話をしに出向く。その日に刈り取った稲束を抱えて新幹線に乗るそうだ。今年からは新たに中学2年生の職場体験も受け入れた。いずれも児童・生徒からの評判は上々で、将来農家になりたいという子どもが増えているとうれしそうに話す。まさに農業の伝道師だ。

▼地域活性化の切り札「フルドノタイム」
小澤氏が同世代の仲間と一緒に実行委員として取り組む「フルドノタイム」というイベントが2021年から毎年開催されている。地域のさまざまな資源を博物館のように巡ったり体験したりできるイベントで、町外からの来訪者も年々増加し、それにつれて町内での関心も高まってきている。こうした活動を通して移住希望者も出始めているが、受け入れる施設が不足している。そのため、次の課題として空き家を活用し、さらに地域を盛り上げたいと考えている。
(2024年9月2日取材 I)

■名称:「ふるさと工房おざわふぁーむ」
■住所 福島県石川郡古殿町田口字石畑135
■URL:https://www.facebook.com/profile.php?id=100063697742516

写真トップ:ぶどう栽培も手掛ける
古殿町には果樹農家がなく、コメの繁忙期とダブらないぶどうを3種選んで栽培している。取り組み始めて6年目になるが、まだまだ試行錯誤だそう。ちょうどシャインマスカットの出荷時期。素人目にはどれも立派に見えるが、品質をチェックする目は厳しい。

写真2:ライスセンターの中は乾燥機が並ぶ
高齢化等の理由でコメの生産委託が増えていて、現在では20丁歩に及ぶ。刈り取った稲はすぐに乾燥機にかけるが、受託先ごとに仕分ける必要があるため、5台の乾燥機が並ぶさまは壮観。不良米も仕訳けられる高性能選別機も導入し、品質管理も万全。

 

写真3:古民家農泊
元の牛小屋を改修し、古民家農泊として1日1組限定で受け入れている。長期の夏休みを利用して、遠方から大学生が泊まり込んで、田舎暮らしを体験するという例も増えている。土間に囲炉裏は何とも風情があり、地域の人たちが集まる場にもなっている。